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アストロシティ:ローカルヒーロズ

アストロシティ:ローカルヒーロズ
(作:カート・ビュシーク、画:ブレント・アンダーソン)

ヒーローたちが集う街アストロシティ。その街で弁護士として働くヴィンスには、「法は美しい」という信念があった。
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法は美しい。司法とはそれに関わる者が真摯に役割を果たすことで機能する、人類が築き上げた概念の中で最も"完璧"という言葉ににじり寄った存在であるのだ。

そんなある日、ヴィンスは厄介としか言いようのない事件を担当することとなる。
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弁護の相手は、マフィアのドラ息子。
父親の経営するバーで女性と口論になったドラ息子は、多くの人が見守る中で女性を殴打。
彼女を死へと至らしめたのだ。

ドラ息子の有罪は明らか。後はその量刑をいかに減らせるかが裁判のポイントとなる筈であった。
しかし、ドラ息子の父親であるマフィアは、無罪以外の判決を認めない態度でヴィンスを脅すのだ。

八方ふさがりの状態で進んでいく裁判。

最愛の家族を人質に取られて望んだ最終弁論の場で、ヴィンスは驚きの法廷戦術にでる。

ヴィンス:検視官。ここにあなたが1967年に担当した事件の調書があります。
これは、あなたのサインですね?
検視官:間違いありません。しかし、その事件は…
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ヴィンス:あなたはこの銀行強盗事件で逮捕された容疑者、ジョンソン大統領、ケネディ大統領、エリザベス・モンゴメリ(女優)の指紋が本人のものであることを認めていますね?
検視官:あれはドッペルギャングの仕業だった。他人に化けるのが、奴らのやり口で……

ヴィンス:1971年の核兵器盗難事件は?あなたは指紋と監視カメラの映像を証拠に、ファースト・ファミリーのリーダーを逮捕していますね?真犯人は誰でしたか?
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検視官:ワースト・ファミリー、別次元からやってきた悪のファースト・ファミリーだ。

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ヴィンス:1966年のスーパーソニックの検死を行ったのもあなたですね?
ご存知の通り、彼はその後、死から復活しました。今回の被害者とされる女性が本当に死亡していたと、あなたは言い切れますか?

アストロシティで起こった過去の事件を次々と引き合いに出しながら、「今回の容疑者が本当に本人だったのか?」、「魔術などで操られていた可能性はないのか?」、「そもそも本当に事件は発生したのか?」を問いかけていくヴィンス。

いずれの証人たちもヴィンスの問いかけに応えられない。
あたりまえである。なんでも起こりえるこの世界で、あらゆる可能性を考慮できるわけはないのだから。

かくして、被告人のドラ息子には推定無罪の原則が適用され、晴れて無罪放免となる。

勝利と引き換えに、自らが信奉する法の穴を突き、世界の司法システムを根底を覆してしまったヴィンス。
しかし、彼にとっての地獄はこれからであった。

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ヴィンスの手腕を気に入ったドラ息子の父親は、彼をマフィアの顧問弁護士に無理やり抜擢。今回の法廷戦術を、ファミリーが抱える全ての裁判に適用するように命じたのだ……

*****************************
というわけで、新型コロナの影響で新刊が出ない時期が続いたので、今回はその間に読んだ作品の紹介です。

『スポーン』や『Gen13』などのイメージコミック勢が台頭し、それらの作品に追随する形でマーベルやDCのヒーローたちも、より過激で、より暴力的な方向に路線変更していた90年代半ば。
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しかしそんな"エクスリーム"全盛期において、その方向性に待ったをかけ、現代のコミックシーンにつながるヒーローたちの王道回帰の流れを創った作品群が登場しました。

それは例えば、『ヒーローズリボーン』の終了後に始まったマーク・ウェイドの『キャプテン・アメリカ』やカート・ビュシークの『アベンジャーズ』であり、
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グラント・モリソンの『JLA』であるのですが、
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その中でも欠かすことが出来ない作品が今回紹介した『アストロシティ』です。

DCでもマーベルでもない、しかし確実にそのエッセンスを感じさせる世界を舞台に、ヒーローがいる世界のリアルを描いた『アストロシティ』。
「ヒーローがいる世界のリアルを描く」というと、ヒーローが酒や薬に溺れたり、社会的立場を利用して暗い欲望を満たすヒーローの裏の顔を描くような、露悪的な物語を想像するかもしれません。(実際にそういう作品も、当時、沢山ありました)

しかし、『アストロシティ』の描く"リアル"はそうではありません。
『アストロシティ』の"リアル"とは、例えば「ヒーロー家族の末っ子として宇宙や別次元を冒険する少女が感じる"学校"という異世界への憧れ」であったり、「刑期を終えて更生を目指すB級ヴィランの溜め息」であったりと、ヒーローコミックの全てを肯定した上で描かれる、パネルとパネルの間に存在する住人たちの日常なのです。

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今回紹介した物語も、けして「アメコミ世界ではまともな司法制度なんて成立しないよね」という意地悪な指摘で終わりではありません。
そうした指摘を踏まえたうえで、「それではアメコミ世界における司法の正義とはどのような形なのか?」を探る物語となっていきます。

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(ちなみに今回の物語で重要な役割を果たすヒーロー、ブルーナイト。
司法プロセスを無視し罪人を射殺する私刑執行人で、パニッシャーとゴーストライダーを合わせたようなキャラクターです。)

残念ながら、国内での翻訳は止まってしまった本作ですが、短編が多い(そしてそれらが皆面白い)作品ですので、原書でもぜひどうぞ。

【宣伝】
『アストロシティ』には複数の翻訳本が出ています。
いずれも現在では入手難ですが、名作ぞろいですので見かけたら是非どうぞ。
また、翻訳された2巻に続く『ファミリーアルバム』と今回紹介した話が収録される『ローカルヒーローズ』は、それぞれ短編集ですので、ここから読み始めるのもおすすめです。
(紹介しておいてあれですが、個人的には『ファミリーアルバム』の方を特にお勧めします)



DCは最近本国で、1冊完結のグラフィックノヴェルに力を入れているのですが、そんな作品群が続々と翻訳される模様。
『ハーレイ・クイン:ガールズ・レボリューション』はいわゆる"学パロ版ゴッサム"!ハーレクインを主人公に、ブルース、ジョーカー、ポイズン・アイヴィがみんな10代の若者として登場。
同じくハーレイが主人公の『ハーリーン』は打って変わって、アダルトな雰囲気が漂うロマンス。ジョーカーがセクシーすぎて鼻血出そう…
『ワンダーウーマン:ウォーブリンガー』は、ワンダーウーマンの少女時代を描いたグラフィックノベル。こちらは"Wonder Woman Warbringer comic"ちょっと検索してほしいのですが、とにかくアートが美麗です。ワンダーウーマンを主人公としたベストセラー小説が原作で、内容も折り紙つきです。




また、最近はヒーローコミック以外のコミックの翻訳も盛んになってきました。
『アメリカン・ボーン・チャイニーズ:アメリカ生まれの中国人』は現在DCで活躍中のライター、ジーン・ルエン・ヤンの出世作。
彼が『スーパーマン』に抜擢されたのは、アメリカ移民2世の悲哀を描いた本作がDC編集部の眼に止まったからではないかと、管理人は思っています。
またピュリッツァー賞を獲得した名著『完全版 マウス――アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』が久しぶりに発売。
こちらも一生モノのコミックですので、未読の方は是非。


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プロフィール

NOB-BON

Author:NOB-BON
X-men生まれSpawn育ちを地でいく、90年代アメコミバブルの残党。
しばらくの間、アメコミは翻訳本を買う程度だったのが、最近のデジタルコミックの手軽さにひかれ、本格的に復活しました。

基本的にMarvelメインですが、DCのリランチを機に自分の中でDCブームが来てるので、しばらくはDCの話題続くかも。
しばらくどころか完全にDC派に転びました。

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