DCユニバース:リバース
DCユニバース:リバース
(作:ジェフ・ジョーンズ、画:ゲイリー・フランク、イーサン・ヴァン・スキバー他)
【バットケイブにて】
ダークサイドウォー事件を終えゴッサムに戻ったバットマンは、新たな謎に頭を悩ませていた。
ダークサイドとアンチモニターとの戦いに備え、座る者に全知をもたらす"神の椅子"メビウスチェアーに座ったバットマン。
椅子の力を確認するために、彼が問いかけた「ジョーカーの本名は?」という質問に対して、メビウスチェアーは意外な答えを返したのだ。
「ジョーカーは過去に3人いたため、回答不能」

(こちら左から、クライシス前のジョーカー、フラッシュポイント前のジョーカー、New52のジョーカー)
椅子の回答の意味を探るために、バットケイブにこもるバットマン。
そこに突然の雷鳴が鳴り響く。
稲妻による爆発の収まりと共に、ブルースは自分の前に立つ青年の姿に気が付く。

青年:ブルース!あなたの助けが必要だ!
バットマン:誰だ!?
青年:手紙を…父親からの手紙をあなたがどうやって手に入れたのかを思い出して…
あれが・・・すべての始まり・・・
現れた時と同様に、稲妻と共に消え失せる青年。
そして再び静寂を取り戻したバットケイブでバットマンは・・・
【青年の正体】
バットケイブに姿を現した青年の名前はウォーリー・ウエスト。
New52世界のウォーリーその人であり、(New52世界での)初代キッドフラッシュともいえる人物であった。
フラッシュのサイドキックとしてヒーロー稼業に身を投じ、『タイタンズハント』で存在が明らかとなったオリジナル・ティーンタイタンズのメンバーとしても活躍したウォーリー。

しかし彼は、彼やフラッシュに力を与える謎のエネルギー"スピードフォース"にアクセスしすぎたせいで、スピードフォースに取り込まれてこの世界から消失。
"存在しない人間"として人々の記憶からも、その存在が抹消されていたのだ。
しかし、New52世界からこぼれ落ち、その外に存在するスピードフォースと一体化したウォーリーは、内側からでは知ることができなかったこの世界の秘密に気がつく。
かつて世界は、このような姿ではなかった。
『クライシス・オン・インフィニット・アーシズ』事件の中で、バリー・アレンがその身を犠牲にして生まれた世界。

そこはJLAを筆頭に、経験豊かなベテランヒーローから、才気あふれる若者ヒーローまで、全ての世代のヒーローたちが深い絆でつながった、強靭で希望に満ちた世界であった。
しかしウォーリーの親友バリーが引き起こした『フラッシュポイント』事件の中で、その姿はアマゾンとアトランティス、そして人類が互いに争うこの世の地獄へと変貌を遂げてしまう。
幸いにもその後、バリーとトーマス・ウェインそしてフラッシュポイント世界のヒーローたちの活躍により、歴史改編の原因は取り除かれ、世界は再び元の姿を取り戻すかに見えた。
しかしその瞬間を狙って"彼ら"はやってきた。

以前から様々な方法でDC世界に影響を与えてきた"彼ら"は、世界の歴史が織りなおされるその瞬間を狙い、DC世界から10年間の歴史とそこで培われたヒーロー同士の絆を、ジェンガのピースを抜き取るかのように奪い取る。
かくしてDCユニバースはかつての姿を失い、まだ互いのことをよく知らない経験の浅いヒーローたちによる若く未熟な世界――New52世界が始まったのだ。
しかし"彼ら"はこの結果に満足し、この世界を去ったわけではない。目的も正体も分からないが、彼らは今でもこのユニバースの外側で次なる攻撃のチャンスをうかがっている。
ウォーリーは、"彼ら"の存在を皆に警告するために、スピードフォースに完全に取り込まれる前の最後の力で、歴史と絆を失ったこの世界を彷徨う。
【老人ホームにて】
アメリカのとある老人ホーム。多くの老人が穏やかに最後のときを待つ中、痴ほう症を患った一人の老人は今日も闘っていた。

老人:放せ!わしは外にでにゃならんのだ!
職員:クソっ、部屋に戻れ!他のジイさんバアさん見たいに大人しくできないのか。
老人:お願いじゃから、わしを行かせてくれ!
老人ホームからの脱走を企て、逃げ込んだ厨房。
そこに稲妻と共に、ウォーリーが現れる
ウォーリー:どれだけここにいられるか分からないから、しっかり聞いてください。
歴史は奪われたかもしれませんが、あなたの仲間たちが完全に消えたわけではありません。
再び戦争が起こります。あなたたちの力が必要なんです。
ジョニー、ジンの力を使うんです。
しかし、痴ほう症の薄もやに包まれた老人には、ウォーリーの言葉は届かない。
老人:マッカーシーの奴が「マスクを脱げ」と命令したんじゃ…
みんなを守るためには仕方なかったんじゃ、許してくれ・・・

ウォーリー:早くジャスティス・ソサエティを探し出して!
老人:毎日やっておる!
老人がパニックを起こした瞬間に、再びウォーリーはスピードフォースに引き戻される。
老人:どこにゆくんじゃ!セイ・ユー!セイ・ユー!サンダーボルト!
戻ってくるんじゃ。

しかし、かつてジョニー・ザ・サンダーと呼ばれた老人が相棒を呼ぶ声は、老人ホームのキッチンに虚しく響くのみであった…
【ウォーリーの彷徨】
人々に警告をするために、自分とこの世界の絆を頼りに彷徨を続けるウォーリー。
その中でウォーリーは、


死亡したスーパーマンの復活を、まるでそれが歴史的事実であるかのように語る少女と、その指輪、

レイ・パーマーからのSOSを受け取る青年ライアン・チョイ、

初対面のはずなのに互いの半身を見つけたかのように惹かれあう、グリーンアローとブラックキャナリーなど、
この世界にも奪われたはずの"絆"が再び芽吹こうとする様を目撃する。
そして遂にウォーリーは、前の世界で生涯の伴侶であった女性、リンダ・パークをこの世界に見つける。

リンダと自分、ひいてはこの世界と自分との絆を取り戻すために、最後の力を振り絞ってリンダのもとへと向かうウォーリー。
しかし、そこには残酷な現実が待っていた…
【パンドラの最後】
一方そのころ、New52世界構築の首謀者とみなされていた人物、パンドラは路地裏にて最後の時を迎えていた。
来るべき脅威に備えるためにNew52世界を作ったはずの彼女は、自分を追い詰めた何者かに叫ぶ。

パンドラ:私に何をしようとも、お前のやったことは隠せない。
これは全て私の責任。「世間知らずのパンドラがすべての悪を解き放った」・・・
でも冷笑、疑念、堕落…あなたが信じるすべての悪がこの世を覆ったとしても、希望だけは残る。
この世界のヒーロー達は、まさに希望の化身そのものよ。
パンドラ:彼らの希望が、彼らの情熱が、彼らの愛が、必ずやあなたを打ち破る!
あなたが間違っていることを、あなたが単なる冷酷な化け物に過ぎないことを証明してくれる!

【再びバットケイブにて】
ウォーリーが去り、再び静寂を取り戻したバットケイブでバットマンはウォーリーと共にこの世界に現れたある物を発見する。
それは…

【火星にて】
謎の声1:私は正しいことをしたと考えてよいのか?全ては最後には上手くいったと考えて…
謎の声2:"最後には"だと?
エイドリアンよ、何も終わってなどいない。
何事にも終わりなどないのだ…

(DCユニバースの時計の針は進み続ける)
********
というわけで、5月末に発売されDCファンのみならず、アメコミファン全体を衝撃と興奮の渦に巻き込んだ『DCユニバース:リバース』の紹介でした。
細かい感想の前に、少しだけ補足をしておくと、今回の復活を果たしたウォーリーは、本文でも述べたように『タイタンズハント』にてその存在が匂わされた"10人目のメンバー"であり、New52世界での人生を持つ人物です。
(細かいニュアンスを抜きにすると、New52のウォーリーが"前世の記憶"を思い出したと理解すればそれほど間違えてはいないはず)

ちなみにもう一人のウォーリーとは従兄弟の関係にあり、お互いお爺ちゃんの名前をもらってウォーリーと名付けられました。
それにしても、『DCユニバース:リバース』はとんでもない作品でしたね。
発売日に会社帰りの喫茶店にて本作を読んだ管理人は、興奮のあまり読み終わったあと、しばらく立ち上がることができませんでした。
復活を遂げたウォーリーが、次々とNew52世界が失ったと思われたものを発見していく過程は涙なしには読めないものでしたし、"禁じ手"ともいえる最後の落ちも衝撃的。
しかし何といっても、自分の心を打ったもの。それは死を覚悟したパンドラが(おそらく)Dr.マンハッタンに切った最後の啖呵でした。
改めて解説するのも野暮なのですが、アラン・ムーアの傑作コミック『ウォッチメン』はDCにとって、というよりはアメコミ界全体を語る上で避けて通れない作品であり、現代のコミックは多かれ少なかれ『ウォッチメン』の成し遂げたその功績の上になりたっているといっても過言ではないでしょう。
そういう意味では、「DC世界は昔からDr.マンハッタンによる介入を受け続けてきた」という今回のサプライズは、そっくりそのままコミック業界の現状を現したものでもあるのです。
そういった視点で読むと今回のパンドラのセリフは、作者であるジェフ・ジョーンズによる、ムーアへの挑戦状とも決意表明ともいえるものであり、非常に意味深いものであります。

また個人的に嬉しかったのは、「フラッシュポイントで失われたDCの遺産を再び取り戻す」という難事業を為すにあたって、DCがNew52の物語を無かったことにしてリブート前に戻すような"後戻り"を、一切行わなかったことです。
そういった安易な外科的手法を採用する代わりに、DCは本作にて「New52世界とフラッシュポイント前の世界が(そしてクライシスの前の世界も)地続きであり、そこに生きる人物たちも本質的な部分においては同じ人物である」という、フラッシュポイントやクライシスの中でも描写されていた事実を再び強調するにとどめました。
これはDCが、本作を読んだ方の心の中に必ずや産まれたであろう「New52のキャラとリブート前世界のキャラを結ぶ心理的な繋がり」を、これからの物語の中でより強固で確実なものへと育てて行くという地味で険しい道を辿ることを選んだ事の表れであり、私にはそれが非常に好ましく映りました。
長々とまとまりのないことを書いてしましましたが『DCユニバース:リバース』は、80年を超えるDCの歴史に対する敬意、コミックの新たな時代に向けた決意、そして何よりも管理人がアメコミを愛してやまない理由である「停滞を良しとせずひたすら前へと進み続けるエネルギー」に満ちた期待以上の大傑作でした。
管理人としては、この大傑作の誕生にリアルタイムで立ち会えた喜びを噛みしめるとともに、これから始まるDCユニバースの新章を楽しみにしたいと思います。
【宣伝】
いつもの近刊の紹介の前に、今回は「DCユニバース:リバース」の副読本となる翻訳本の紹介を。
初めに何と言っても外せないのは『ウォッチメン』。80年代の発表以降コミックシーンの流れをがらりと変えた普及の名作で、この作品を「アメリカンコミックスの最高傑作」と呼んだとしても異論の声をあげる人は珍しいでしょう。
続いて、読んでおきたいのはDCの歴史で2回行われたリブートのきっかけとなった事件、『フラッシュポイント』と『クライシス・オン・インフィニット・アース』です。
特に前者は今回紹介した「DCユニバース:リバース」に直接つながっており、必読と言ってもいい内容です。
またDCの80年近いの歴史と伝統を感じたいのであればお勧めなのが『DCユニバース:レガシーズ』。
DCコミックスの創立75周年記念タイトルとして発刊された本タイトルは、DC世界に暮らす1人の一般人の目からDCコミックスの歴史をまとめた名作です。
続いて近刊の中から気になるタイトルを何冊か。
まずは「DCで一番人気のあるコミック」の1つであるシリーズ最新刊「ハーレイ・クイン:パワー・アウテイジ」が前作に続き刊行されます。
また個人的に気になっているのが、DCきっての人気悪役をスーパーアーティスト、トニー・ダニエルが描いた「デスストローク」。実はその人気の割にあまり読んだことがないキャラなので、リバース版の予習として解説にも期待をしています。
また、スーパーマン/バットマン/ワンダーウーマンというDC3大スターを描いた名作「バットマン/スーパーマン/ワンダーウーマン:トリニティ」がいつの間にやら翻訳タイトルにリストアップされていましたので、こちらも期待。
(作:ジェフ・ジョーンズ、画:ゲイリー・フランク、イーサン・ヴァン・スキバー他)
【バットケイブにて】
ダークサイドウォー事件を終えゴッサムに戻ったバットマンは、新たな謎に頭を悩ませていた。
ダークサイドとアンチモニターとの戦いに備え、座る者に全知をもたらす"神の椅子"メビウスチェアーに座ったバットマン。
椅子の力を確認するために、彼が問いかけた「ジョーカーの本名は?」という質問に対して、メビウスチェアーは意外な答えを返したのだ。
「ジョーカーは過去に3人いたため、回答不能」

(こちら左から、クライシス前のジョーカー、フラッシュポイント前のジョーカー、New52のジョーカー)
椅子の回答の意味を探るために、バットケイブにこもるバットマン。
そこに突然の雷鳴が鳴り響く。
稲妻による爆発の収まりと共に、ブルースは自分の前に立つ青年の姿に気が付く。

青年:ブルース!あなたの助けが必要だ!
バットマン:誰だ!?
青年:手紙を…父親からの手紙をあなたがどうやって手に入れたのかを思い出して…
あれが・・・すべての始まり・・・
現れた時と同様に、稲妻と共に消え失せる青年。
そして再び静寂を取り戻したバットケイブでバットマンは・・・
【青年の正体】
バットケイブに姿を現した青年の名前はウォーリー・ウエスト。
New52世界のウォーリーその人であり、(New52世界での)初代キッドフラッシュともいえる人物であった。
フラッシュのサイドキックとしてヒーロー稼業に身を投じ、『タイタンズハント』で存在が明らかとなったオリジナル・ティーンタイタンズのメンバーとしても活躍したウォーリー。

しかし彼は、彼やフラッシュに力を与える謎のエネルギー"スピードフォース"にアクセスしすぎたせいで、スピードフォースに取り込まれてこの世界から消失。
"存在しない人間"として人々の記憶からも、その存在が抹消されていたのだ。
しかし、New52世界からこぼれ落ち、その外に存在するスピードフォースと一体化したウォーリーは、内側からでは知ることができなかったこの世界の秘密に気がつく。
かつて世界は、このような姿ではなかった。
『クライシス・オン・インフィニット・アーシズ』事件の中で、バリー・アレンがその身を犠牲にして生まれた世界。

そこはJLAを筆頭に、経験豊かなベテランヒーローから、才気あふれる若者ヒーローまで、全ての世代のヒーローたちが深い絆でつながった、強靭で希望に満ちた世界であった。
しかしウォーリーの親友バリーが引き起こした『フラッシュポイント』事件の中で、その姿はアマゾンとアトランティス、そして人類が互いに争うこの世の地獄へと変貌を遂げてしまう。
幸いにもその後、バリーとトーマス・ウェインそしてフラッシュポイント世界のヒーローたちの活躍により、歴史改編の原因は取り除かれ、世界は再び元の姿を取り戻すかに見えた。
しかしその瞬間を狙って"彼ら"はやってきた。

以前から様々な方法でDC世界に影響を与えてきた"彼ら"は、世界の歴史が織りなおされるその瞬間を狙い、DC世界から10年間の歴史とそこで培われたヒーロー同士の絆を、ジェンガのピースを抜き取るかのように奪い取る。
かくしてDCユニバースはかつての姿を失い、まだ互いのことをよく知らない経験の浅いヒーローたちによる若く未熟な世界――New52世界が始まったのだ。
しかし"彼ら"はこの結果に満足し、この世界を去ったわけではない。目的も正体も分からないが、彼らは今でもこのユニバースの外側で次なる攻撃のチャンスをうかがっている。
ウォーリーは、"彼ら"の存在を皆に警告するために、スピードフォースに完全に取り込まれる前の最後の力で、歴史と絆を失ったこの世界を彷徨う。
【老人ホームにて】
アメリカのとある老人ホーム。多くの老人が穏やかに最後のときを待つ中、痴ほう症を患った一人の老人は今日も闘っていた。

老人:放せ!わしは外にでにゃならんのだ!
職員:クソっ、部屋に戻れ!他のジイさんバアさん見たいに大人しくできないのか。
老人:お願いじゃから、わしを行かせてくれ!
老人ホームからの脱走を企て、逃げ込んだ厨房。
そこに稲妻と共に、ウォーリーが現れる
ウォーリー:どれだけここにいられるか分からないから、しっかり聞いてください。
歴史は奪われたかもしれませんが、あなたの仲間たちが完全に消えたわけではありません。
再び戦争が起こります。あなたたちの力が必要なんです。
ジョニー、ジンの力を使うんです。
しかし、痴ほう症の薄もやに包まれた老人には、ウォーリーの言葉は届かない。
老人:マッカーシーの奴が「マスクを脱げ」と命令したんじゃ…
みんなを守るためには仕方なかったんじゃ、許してくれ・・・

ウォーリー:早くジャスティス・ソサエティを探し出して!
老人:毎日やっておる!
老人がパニックを起こした瞬間に、再びウォーリーはスピードフォースに引き戻される。
老人:どこにゆくんじゃ!セイ・ユー!セイ・ユー!サンダーボルト!
戻ってくるんじゃ。

しかし、かつてジョニー・ザ・サンダーと呼ばれた老人が相棒を呼ぶ声は、老人ホームのキッチンに虚しく響くのみであった…
【ウォーリーの彷徨】
人々に警告をするために、自分とこの世界の絆を頼りに彷徨を続けるウォーリー。
その中でウォーリーは、


死亡したスーパーマンの復活を、まるでそれが歴史的事実であるかのように語る少女と、その指輪、

レイ・パーマーからのSOSを受け取る青年ライアン・チョイ、

初対面のはずなのに互いの半身を見つけたかのように惹かれあう、グリーンアローとブラックキャナリーなど、
この世界にも奪われたはずの"絆"が再び芽吹こうとする様を目撃する。
そして遂にウォーリーは、前の世界で生涯の伴侶であった女性、リンダ・パークをこの世界に見つける。

リンダと自分、ひいてはこの世界と自分との絆を取り戻すために、最後の力を振り絞ってリンダのもとへと向かうウォーリー。
しかし、そこには残酷な現実が待っていた…
【パンドラの最後】
一方そのころ、New52世界構築の首謀者とみなされていた人物、パンドラは路地裏にて最後の時を迎えていた。
来るべき脅威に備えるためにNew52世界を作ったはずの彼女は、自分を追い詰めた何者かに叫ぶ。

パンドラ:私に何をしようとも、お前のやったことは隠せない。
これは全て私の責任。「世間知らずのパンドラがすべての悪を解き放った」・・・
でも冷笑、疑念、堕落…あなたが信じるすべての悪がこの世を覆ったとしても、希望だけは残る。
この世界のヒーロー達は、まさに希望の化身そのものよ。
パンドラ:彼らの希望が、彼らの情熱が、彼らの愛が、必ずやあなたを打ち破る!
あなたが間違っていることを、あなたが単なる冷酷な化け物に過ぎないことを証明してくれる!

【再びバットケイブにて】
ウォーリーが去り、再び静寂を取り戻したバットケイブでバットマンはウォーリーと共にこの世界に現れたある物を発見する。
それは…

【火星にて】
謎の声1:私は正しいことをしたと考えてよいのか?全ては最後には上手くいったと考えて…
謎の声2:"最後には"だと?
エイドリアンよ、何も終わってなどいない。
何事にも終わりなどないのだ…

(DCユニバースの時計の針は進み続ける)
********
というわけで、5月末に発売されDCファンのみならず、アメコミファン全体を衝撃と興奮の渦に巻き込んだ『DCユニバース:リバース』の紹介でした。
細かい感想の前に、少しだけ補足をしておくと、今回の復活を果たしたウォーリーは、本文でも述べたように『タイタンズハント』にてその存在が匂わされた"10人目のメンバー"であり、New52世界での人生を持つ人物です。
(細かいニュアンスを抜きにすると、New52のウォーリーが"前世の記憶"を思い出したと理解すればそれほど間違えてはいないはず)

ちなみにもう一人のウォーリーとは従兄弟の関係にあり、お互いお爺ちゃんの名前をもらってウォーリーと名付けられました。
それにしても、『DCユニバース:リバース』はとんでもない作品でしたね。
発売日に会社帰りの喫茶店にて本作を読んだ管理人は、興奮のあまり読み終わったあと、しばらく立ち上がることができませんでした。
復活を遂げたウォーリーが、次々とNew52世界が失ったと思われたものを発見していく過程は涙なしには読めないものでしたし、"禁じ手"ともいえる最後の落ちも衝撃的。
しかし何といっても、自分の心を打ったもの。それは死を覚悟したパンドラが(おそらく)Dr.マンハッタンに切った最後の啖呵でした。
改めて解説するのも野暮なのですが、アラン・ムーアの傑作コミック『ウォッチメン』はDCにとって、というよりはアメコミ界全体を語る上で避けて通れない作品であり、現代のコミックは多かれ少なかれ『ウォッチメン』の成し遂げたその功績の上になりたっているといっても過言ではないでしょう。
そういう意味では、「DC世界は昔からDr.マンハッタンによる介入を受け続けてきた」という今回のサプライズは、そっくりそのままコミック業界の現状を現したものでもあるのです。
そういった視点で読むと今回のパンドラのセリフは、作者であるジェフ・ジョーンズによる、ムーアへの挑戦状とも決意表明ともいえるものであり、非常に意味深いものであります。

また個人的に嬉しかったのは、「フラッシュポイントで失われたDCの遺産を再び取り戻す」という難事業を為すにあたって、DCがNew52の物語を無かったことにしてリブート前に戻すような"後戻り"を、一切行わなかったことです。
そういった安易な外科的手法を採用する代わりに、DCは本作にて「New52世界とフラッシュポイント前の世界が(そしてクライシスの前の世界も)地続きであり、そこに生きる人物たちも本質的な部分においては同じ人物である」という、フラッシュポイントやクライシスの中でも描写されていた事実を再び強調するにとどめました。
これはDCが、本作を読んだ方の心の中に必ずや産まれたであろう「New52のキャラとリブート前世界のキャラを結ぶ心理的な繋がり」を、これからの物語の中でより強固で確実なものへと育てて行くという地味で険しい道を辿ることを選んだ事の表れであり、私にはそれが非常に好ましく映りました。
長々とまとまりのないことを書いてしましましたが『DCユニバース:リバース』は、80年を超えるDCの歴史に対する敬意、コミックの新たな時代に向けた決意、そして何よりも管理人がアメコミを愛してやまない理由である「停滞を良しとせずひたすら前へと進み続けるエネルギー」に満ちた期待以上の大傑作でした。
管理人としては、この大傑作の誕生にリアルタイムで立ち会えた喜びを噛みしめるとともに、これから始まるDCユニバースの新章を楽しみにしたいと思います。
【宣伝】
いつもの近刊の紹介の前に、今回は「DCユニバース:リバース」の副読本となる翻訳本の紹介を。
初めに何と言っても外せないのは『ウォッチメン』。80年代の発表以降コミックシーンの流れをがらりと変えた普及の名作で、この作品を「アメリカンコミックスの最高傑作」と呼んだとしても異論の声をあげる人は珍しいでしょう。
続いて、読んでおきたいのはDCの歴史で2回行われたリブートのきっかけとなった事件、『フラッシュポイント』と『クライシス・オン・インフィニット・アース』です。
特に前者は今回紹介した「DCユニバース:リバース」に直接つながっており、必読と言ってもいい内容です。
またDCの80年近いの歴史と伝統を感じたいのであればお勧めなのが『DCユニバース:レガシーズ』。
DCコミックスの創立75周年記念タイトルとして発刊された本タイトルは、DC世界に暮らす1人の一般人の目からDCコミックスの歴史をまとめた名作です。
続いて近刊の中から気になるタイトルを何冊か。
まずは「DCで一番人気のあるコミック」の1つであるシリーズ最新刊「ハーレイ・クイン:パワー・アウテイジ」が前作に続き刊行されます。
また個人的に気になっているのが、DCきっての人気悪役をスーパーアーティスト、トニー・ダニエルが描いた「デスストローク」。実はその人気の割にあまり読んだことがないキャラなので、リバース版の予習として解説にも期待をしています。
また、スーパーマン/バットマン/ワンダーウーマンというDC3大スターを描いた名作「バットマン/スーパーマン/ワンダーウーマン:トリニティ」がいつの間にやら翻訳タイトルにリストアップされていましたので、こちらも期待。
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