ビッグゲーム#1-2
ビッグゲーム#1-2
(作:マーク・ミラー、画:ペペ・ララズ)
【初代クライシス】
1986年に起こった善と悪、ヒーローたちとヴィランたちの最終戦争は、悪の勝利で終わった。

立場の違いを超えて集まったヴィラン連合"フラタニティ"は、自分たちの勝利を恒久のものとするため、ユニバースの歴史を改変。この世界から"スーパーヒーロー"の記憶と記録を完全に消し、自らも社会の表から姿を消し、裏側から支配する道を選んだのだ。
※1986年はDCの『クライシス・オン・インフィニット・アーシズ』が完結し、DC世界がリランチされた年
かくして世界は、空を飛ぶ原色の英雄も、奇天烈な犯罪計画で彼らと知恵比べをする悪役も存在しない、我々が"現実"と呼ぶ灰色の荒野となったのだ。
しかし、ヒーローという概念を抹殺したヴィランたちの目論見は長くは続かない。
この世界にも、様々な形で新しいヒーローが生まれつつあったのだ……
【アンバサダーズ】
そんな"新しいヒーロー"の代表格といえるのが天才科学者チョンヒによって設立された国際救助隊アンバサダーズである。
誰にでも自由に分け与えられるスーパーパワーの配信装置を開発したチョンヒは、世界中の国々から1人ずつ善人たちを集め、配信装置へのアクセス権と出身国の国旗をモチーフにしたコスチュームを与える、国連主義的ヒーローチームを結成したのだ。

順調に参加者を増やしていくアンバサダーズであったが、彼らにはちょっとした懸念があった。
アメリカ代表がどうしても決まらないのだ。
他の国と異なり、アメリカの場合は、どのような候補者であろうが、その人物は必ず国民の半数から憎まれることが予想され、国の代表となりえないのだ。
しかし、アンバサダーズにとってそんなことは些細な問題であった。
出身国の国力に価値を置かない彼らにとって、所詮アメリカなど世界196か国の中の1つに過ぎないのだから。
かくして、韓国に存在するアンバサダーズの拠点、通称"大使館"には、今日も「俺が俺が」という英雄願望に満ちたアメリカ人からの履歴書が押し寄せる。
そしてその履歴書の山の中には、ある青年のものも含まれていた。
その青年の名前はデイヴ・リゼルスキ。かつて"キックアス"と名乗りヒーロー活動をした少年の成長した姿である。

その後、職を転々としながらパッとしない人生を歩みつつある彼は、「世界初のヒーローである自分がアメリカ代表になれば、アンバサダーズにも箔が付くのでは?」という手紙を毎月のように送っては、真のスーパーヒーローになる日を夢想するのだ……
【1985年へ】
ヴィラン連合フラタニティによる完全な世界の綻びはヒーローの登場だけではなかった。

大富豪の起業家、プレイボーイ、ノーベル賞受賞科学者、天才作曲家、オリンピック金メダリストなど様々な側面を持つ"世界一賢い男"エジソン・クレイン(『プロディジー』の主人公)が、この世界の歴史認識に矛盾を感じ始めたのだ。
新たに発掘された先史以前の化石から、歴史を改ざんする何者かの存在に感づいたクレインは、謎の中年女性と出会う。

ボビー・グリフィンと名乗る赤毛の彼女は、自分がかつてとあるヒーローのサイドキックであったこと、世界改変の特に自分だけ師匠の地下基地に隠れていたため記憶を失わずに済んだことを明かし、クレインに1985年まで存在したヒーローたちが闊歩する世界の存在を打ち明ける。
(野暮な補足をすると、彼女はバットガールのパロディです。頭文字がバーバラ・ゴードンと同じなのもそのせい)
しかし科学の人であるクレインは、ボビーの言葉を鵜呑みにすることはせず、それを証明するための追試を行う。
そしてクレインが追試の手段として白羽の矢を立てたのは、限定的な時間旅行を実現化した2人の天才科学者、通称"クロノノーツ"であった。
NASAからの予算不足であえぐクロノノーツに湯水のように資金援助をしたクレインは、1985年のニューヨークへの数分限りの時間旅行を決行する……

1985年のニューヨーク。当時は別の名前で呼ばれていたその大都市で、クレインらが目にしたもの。それは街のシンボルである惑星のモニュメントを掲げる高層ビルであった。
"もっとも偉大なヒーローの勤め先"とボビーが呼ぶビルの前には、今となっては珍しくなった電話ボックス。

そして空から舞い降りるのは……

【フラタニティ】
この世界を陰から支配するヴィラン集団フラタニティは、もちろんこのような"ヒーロー"たちの活動を手をこまねいてみているだけではなかった。
完全なる世界に再び現れ始めたヒーローたちは、フラタニティにとってみれば庭園に繁茂する雑草そのもの。
雑草から庭園を守る方法はただ1つ。まだ手が打てるうちに、雑草を根絶やしにすることだ。

再びヒーローの抹殺のために動き始めたフラタニティとそのリーダーであるウェズリーは、この世界に産まれた究極の悪、"あらゆる善の宿敵(ネメシス)"となるべく育てられた最強の殺し屋ネメシスに、ヒーローたちの暗殺を依頼する。
【暗殺開始】
世界中のヒーローたちの抹殺のために動き始めたフラタニティとネメシス。
"世界最初のヒーロー"の一人であるヒットガールもまた、その標的であった。
フラタニティは、重度のコミックオタクであるヒットガールを狩るために、コミックオタクが最も心浮き立つ曜日である水曜日にミシガン中コミックショップにスナイパーを配置する。
何も知らずいつも通り馴染のコミックショップへ向かうヒットガールだが、それを止めたのは洗練されたスーツに身を包んだ1人の英国紳士であった。

紳士の名前は、ゲイリー・"エグジー"・アンウィン。英国の諜報組織に身を置くエグジーは、世界中の暗殺者たちに出された謎の依頼の1つを解読し、そのターゲットの1人に接触を行ったのだ。
一方、ネメシスもまた依頼を果たすために単独で動き始めていた。

彼の最初のターゲットは、アンバサダーズ。
ネメシスは、世界最大の超人集団を根絶やしにするために、そのメンバーの1人パキスタンを撒き餌にアンバサダーズをおびき出す……
*******************
というわけで、今回はヒットメーカー、マーク・ミラーの作品群の初のクロスオーバー『ビッグゲーム』の紹介でした。
実は、自分はマーク・ミラーの作品の熱心な読者ではなく、『ウォンテッド』、『キックアス』、『アンバサダーズ』くらいしか読んでないのですが、それでも抜群に面白い。
ヒーローがいない普通の世界を舞台に、ヒーロー文脈の物語を展開することが多いマーク・ミラーですが、それらを全て「フラタニティがヒーローを消し去った後の世界」としてつなげるアイデアは脱帽もの。
でもそうなると『スーパークルックス』のような普通にヒーローが存在する世界のコミックはこのクロスオーバーには参加できないわけで、そこら辺にも何か仕掛けがあることを期待しています。
【宣伝】
マーベル関連の邦訳でまず紹介したいのが『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』。ハルクリングによって統治されたクリー・スクラル二重帝国の地球襲来を描く2020年の大型イベントです。
ファンタスティックフォーが主役を張る作品の邦訳は珍しいので、そういう意味でも楽しみですね。
また業界のトップクリエイターによる短編集『デッドプール:ブラック、ホワイト&ブラッド』や、ヒーローオタクのMs.マーベルがマーベル世界の様々なヒーローと絡む姿が可愛らしい『ミズ・マーベル:チーム・アップ』などもおすすめ。
続いてDCですが、こちらはジェイムス・タイニン4世によるバットマン本誌の翻訳である『バットマン:カワードリー・ロット』が翻訳。スケアクロウがメインのイベント『フィアステイト』に直接つながる作品なので、スケアクロウ好きの方は是非。
また、こちらでは紹介していませんでしたが、インターブックスからはニール・ゲイマンによるファンタジーコミックの金字塔『サンドマン』が新訳で邦訳開始!
ちょっと紛らわしいですが、『サンドマン序曲』は2013年に発売された前日譚『Overture』の邦訳(今回が初邦訳!)、『サンドマン1前奏曲と夜想曲』が第一話にあたる『Preludes & Nocturnes』の新版となります。
(作:マーク・ミラー、画:ペペ・ララズ)
【初代クライシス】
1986年に起こった善と悪、ヒーローたちとヴィランたちの最終戦争は、悪の勝利で終わった。

立場の違いを超えて集まったヴィラン連合"フラタニティ"は、自分たちの勝利を恒久のものとするため、ユニバースの歴史を改変。この世界から"スーパーヒーロー"の記憶と記録を完全に消し、自らも社会の表から姿を消し、裏側から支配する道を選んだのだ。
※1986年はDCの『クライシス・オン・インフィニット・アーシズ』が完結し、DC世界がリランチされた年
かくして世界は、空を飛ぶ原色の英雄も、奇天烈な犯罪計画で彼らと知恵比べをする悪役も存在しない、我々が"現実"と呼ぶ灰色の荒野となったのだ。
しかし、ヒーローという概念を抹殺したヴィランたちの目論見は長くは続かない。
この世界にも、様々な形で新しいヒーローが生まれつつあったのだ……
【アンバサダーズ】
そんな"新しいヒーロー"の代表格といえるのが天才科学者チョンヒによって設立された国際救助隊アンバサダーズである。
誰にでも自由に分け与えられるスーパーパワーの配信装置を開発したチョンヒは、世界中の国々から1人ずつ善人たちを集め、配信装置へのアクセス権と出身国の国旗をモチーフにしたコスチュームを与える、国連主義的ヒーローチームを結成したのだ。

順調に参加者を増やしていくアンバサダーズであったが、彼らにはちょっとした懸念があった。
アメリカ代表がどうしても決まらないのだ。
他の国と異なり、アメリカの場合は、どのような候補者であろうが、その人物は必ず国民の半数から憎まれることが予想され、国の代表となりえないのだ。
しかし、アンバサダーズにとってそんなことは些細な問題であった。
出身国の国力に価値を置かない彼らにとって、所詮アメリカなど世界196か国の中の1つに過ぎないのだから。
かくして、韓国に存在するアンバサダーズの拠点、通称"大使館"には、今日も「俺が俺が」という英雄願望に満ちたアメリカ人からの履歴書が押し寄せる。
そしてその履歴書の山の中には、ある青年のものも含まれていた。
その青年の名前はデイヴ・リゼルスキ。かつて"キックアス"と名乗りヒーロー活動をした少年の成長した姿である。

その後、職を転々としながらパッとしない人生を歩みつつある彼は、「世界初のヒーローである自分がアメリカ代表になれば、アンバサダーズにも箔が付くのでは?」という手紙を毎月のように送っては、真のスーパーヒーローになる日を夢想するのだ……
【1985年へ】
ヴィラン連合フラタニティによる完全な世界の綻びはヒーローの登場だけではなかった。

大富豪の起業家、プレイボーイ、ノーベル賞受賞科学者、天才作曲家、オリンピック金メダリストなど様々な側面を持つ"世界一賢い男"エジソン・クレイン(『プロディジー』の主人公)が、この世界の歴史認識に矛盾を感じ始めたのだ。
新たに発掘された先史以前の化石から、歴史を改ざんする何者かの存在に感づいたクレインは、謎の中年女性と出会う。

ボビー・グリフィンと名乗る赤毛の彼女は、自分がかつてとあるヒーローのサイドキックであったこと、世界改変の特に自分だけ師匠の地下基地に隠れていたため記憶を失わずに済んだことを明かし、クレインに1985年まで存在したヒーローたちが闊歩する世界の存在を打ち明ける。
(野暮な補足をすると、彼女はバットガールのパロディです。頭文字がバーバラ・ゴードンと同じなのもそのせい)
しかし科学の人であるクレインは、ボビーの言葉を鵜呑みにすることはせず、それを証明するための追試を行う。
そしてクレインが追試の手段として白羽の矢を立てたのは、限定的な時間旅行を実現化した2人の天才科学者、通称"クロノノーツ"であった。
NASAからの予算不足であえぐクロノノーツに湯水のように資金援助をしたクレインは、1985年のニューヨークへの数分限りの時間旅行を決行する……

1985年のニューヨーク。当時は別の名前で呼ばれていたその大都市で、クレインらが目にしたもの。それは街のシンボルである惑星のモニュメントを掲げる高層ビルであった。
"もっとも偉大なヒーローの勤め先"とボビーが呼ぶビルの前には、今となっては珍しくなった電話ボックス。

そして空から舞い降りるのは……

【フラタニティ】
この世界を陰から支配するヴィラン集団フラタニティは、もちろんこのような"ヒーロー"たちの活動を手をこまねいてみているだけではなかった。
完全なる世界に再び現れ始めたヒーローたちは、フラタニティにとってみれば庭園に繁茂する雑草そのもの。
雑草から庭園を守る方法はただ1つ。まだ手が打てるうちに、雑草を根絶やしにすることだ。

再びヒーローの抹殺のために動き始めたフラタニティとそのリーダーであるウェズリーは、この世界に産まれた究極の悪、"あらゆる善の宿敵(ネメシス)"となるべく育てられた最強の殺し屋ネメシスに、ヒーローたちの暗殺を依頼する。
【暗殺開始】
世界中のヒーローたちの抹殺のために動き始めたフラタニティとネメシス。
"世界最初のヒーロー"の一人であるヒットガールもまた、その標的であった。
フラタニティは、重度のコミックオタクであるヒットガールを狩るために、コミックオタクが最も心浮き立つ曜日である水曜日にミシガン中コミックショップにスナイパーを配置する。
何も知らずいつも通り馴染のコミックショップへ向かうヒットガールだが、それを止めたのは洗練されたスーツに身を包んだ1人の英国紳士であった。

紳士の名前は、ゲイリー・"エグジー"・アンウィン。英国の諜報組織に身を置くエグジーは、世界中の暗殺者たちに出された謎の依頼の1つを解読し、そのターゲットの1人に接触を行ったのだ。
一方、ネメシスもまた依頼を果たすために単独で動き始めていた。

彼の最初のターゲットは、アンバサダーズ。
ネメシスは、世界最大の超人集団を根絶やしにするために、そのメンバーの1人パキスタンを撒き餌にアンバサダーズをおびき出す……
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というわけで、今回はヒットメーカー、マーク・ミラーの作品群の初のクロスオーバー『ビッグゲーム』の紹介でした。
実は、自分はマーク・ミラーの作品の熱心な読者ではなく、『ウォンテッド』、『キックアス』、『アンバサダーズ』くらいしか読んでないのですが、それでも抜群に面白い。
ヒーローがいない普通の世界を舞台に、ヒーロー文脈の物語を展開することが多いマーク・ミラーですが、それらを全て「フラタニティがヒーローを消し去った後の世界」としてつなげるアイデアは脱帽もの。
でもそうなると『スーパークルックス』のような普通にヒーローが存在する世界のコミックはこのクロスオーバーには参加できないわけで、そこら辺にも何か仕掛けがあることを期待しています。
【宣伝】
マーベル関連の邦訳でまず紹介したいのが『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』。ハルクリングによって統治されたクリー・スクラル二重帝国の地球襲来を描く2020年の大型イベントです。
ファンタスティックフォーが主役を張る作品の邦訳は珍しいので、そういう意味でも楽しみですね。
また業界のトップクリエイターによる短編集『デッドプール:ブラック、ホワイト&ブラッド』や、ヒーローオタクのMs.マーベルがマーベル世界の様々なヒーローと絡む姿が可愛らしい『ミズ・マーベル:チーム・アップ』などもおすすめ。
続いてDCですが、こちらはジェイムス・タイニン4世によるバットマン本誌の翻訳である『バットマン:カワードリー・ロット』が翻訳。スケアクロウがメインのイベント『フィアステイト』に直接つながる作品なので、スケアクロウ好きの方は是非。
また、こちらでは紹介していませんでしたが、インターブックスからはニール・ゲイマンによるファンタジーコミックの金字塔『サンドマン』が新訳で邦訳開始!
ちょっと紛らわしいですが、『サンドマン序曲』は2013年に発売された前日譚『Overture』の邦訳(今回が初邦訳!)、『サンドマン1前奏曲と夜想曲』が第一話にあたる『Preludes & Nocturnes』の新版となります。
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